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東京地方裁判所 昭和32年(ワ)5780号 判決 1960年7月01日

原告 伏見市太郎 外八名

被告 明治生命保険相互会社

主文

1  被告は原告小栗に対し金六〇円、その余の原告らに対し各金一二〇円およびこれに対する昭和三二年八月二日から支払ずみまで年五分の割合による金員の支払をせよ。

2  原告らのその余の請求をいずれも棄却する。

3  訴訟費用はこれを十分し、その九を原告らの、その一を被告の負担とする。

事実

第一当事者双方の求める裁判

原告ら訴訟代理人は

「被告は原告らに対し別表(一)記載の金員およびこれに対する昭和三二年八月二日から支払ずみまで年五分の割合による金員の支払をせよ。訴訟費用は被告の負担とする。」

との判決と仮執行の宣言を求め

被告訴訟代理人は

「原告らの請求はいずれも棄却する。訴訟費用は原告らの負担とする。」

との判決を求めた。

第二原告らの請求原因

一  原告らの職務

原告らは被告の取扱う月掛生命保険契約の募集に従事する外、日常一定の地区を管理して既契約の継続保険料の集金に従事するものである。

二  原告らの昭和三二年六月分の給与

原告らの昭和三二年六月一日から同月末日までの給与として同日までに支払わるべき給与は別表(二)のとおりである。

三  原告らの給与の性質

原告らと被告との契約上原告らの昭和三二年六月分の給与はその前における原告らの新契約募集高等によりすでに決定されているのであるから、原告らが同月中に争議行為により被告の労務に服さなかつた場合でも同月分の約定の給与全額が支払わるべきものとして合意されているのである。

その詳細は次のとおりである。

(一)  被告会社の従業員の区別

被告会社の従業員には内勤職員と生命保険契約の募集等を主たる任務とする外勤員との区別があり、外勤員は更に外勤職員と外務員とに区別されている。

(二)  原告らの給与が比例給である根本的理由

昭和三〇年三月一日附の大蔵省銀行局長の通達により被告会社の事業費のうち外勤員に支払われる諸給与、募集旅費その他これに準ずる一切の経費を含むいわゆる新契約費は保険契約高一〇〇〇円につき三〇円以内と定められている。

被告会社は前記の外勤員経費をほぼ保険契約高一〇〇〇円につき二二円か二三円と見積り、そのうち直接給与の財源として二〇円中一円を賞与、残一九円をもつて種々の名目の費用に分けて給与規定を作つている。

以上のように被告会社の外勤員の人数には関係がなく、その年度の保険契約高に比例して外勤員の給与総額が定められているのである。

ここに外勤員の給与はすべてその募集した保険契約高に比例して定められ、低能率者の存在を許されないように定められている根本的な理由がある。

(三)  外勤職員の給与とその募集した保険契約との関係

原告らは前述の外勤職員であるが、外勤職員はその給与の面において(すなわち職制の意味ではなく)(イ)係長(ロ)係長補(ハ)主任の三階級に格付されている。

ちなみに昭和三二年六月当時原告小栗は主任、その余の原告らはいずれも係長、原告山本を除くその余の原告らは地区主任の地位にあつたものである。

この外勤職員たる地位を取得するためには外務員として一定の期間に特定の額の新契約を募集することが必須の条件であるが、外勤職員となつても、その階級に留まるためには、その階級に要求される基準額以上の新契約を募集することを必要としている。

すなわち、被告会社の定める「月掛外勤員の昇格及び格下基準に関する規定」によれば、外勤職員は一定期間、一定の保険契約を募集して行かなければ、欠勤の有無とは関係なく格下が行われ、給与は自動的に減少し、反対に契約高が多ければ自動的に格上が行われることに定められている。

その格下の基準は、募集額が三ケ月通算して基準額の八割以下のときは警告を受け、警告を受けた月一ケ月を入れ、引続き四ケ月通算基準額の八割未満の場合又は通算二ケ月で基準額の五割以下の場合は三ケ月目の初めに警告を受け、通算三ケ月で基準額の八割未満であればいずれもその翌月に格下となるものとされている。

このように外勤職員として最高の資格である係長から五ケ月で外務員に転落することに定められているのである。

外勤職員から外務員に格下げされれば、職員たる資格によつて与えられる給料、出勤手当、地区主任手当、功労加俸、交通費補助、勤務手当(すなわち、被告会社のいう固定給)はすべて奪われ、社会保険も原則として適用されないこととなるのである。

このように原告らの昭和三二年六月分の給与はすでに原告らの過去の募集契約高によつて定まつているのであり、原告らが二日間同盟罷業をしたことによる募集契約高の減少は将来の原告らの給与を低からしめるのであるから、右二日間争議をしたことを理由に同月分の給与を削減することは結局原告らの給与を二回にわたつて削減することに帰するわけである。

従つて過去の新契約の募集高によつて定まつている原告らの給与は全部出来高払制の給与であつて、被告会社のいう固定給与ではあり得ない。

このことは昭和三一年三月二六日附国税庁長官の通達が「生命保険の募集に従事する者(以下外務員という。)が生命保険会社から受けるいわゆる固定給のうちには一定期間の募集成績によつて自動的に格付される外務員の資格に応じてその額が定められるもの又は一定期間の募集成績によつて自動的にその額が定まるものであるが、これらのものはたとえその名称が固定給というものであつても元来外務員の募集成績に応じてその額が異動する性質のものであるので、、、、、これら外務員の受ける固定給は、当該外務員が受ける所得税法第四二条第二項に規定する報酬又は料金に含めて課税すること」としていることから見ても明白である。

(四)  原告らが削減された給与費目について

以下原告らが削減された給与の各費目別にそれが被告会社のいう固定給の性格を持たないことを明らかにする。

(1) 給料、出勤手当

これらは外勤職員にのみ支給され、しかも前記係長以下の資格に応じてその額が異るものである。

ところが、この資格は前述のとおり過去の一定期間の新契約募集成績により自動的に定まり、しかもこの資格の維持はもつぱら各月の募集成績にかかつていて、その成績のいかんによつては僅か三ケ月で降格されるのである。

このように過去の成績に比例する給与が固定給である筈がないのである。

被告会社は募集成績にかかわらず三ケ月間資格が維持されることを固定的というが、これは能率給の後払に過ぎないのである。

被告会社は新契約募集と同時に本来一度に支払うべき報酬を五回に分割して給与支給の平均化を行つているのに過ぎないのである。

(2) 勤務手当、交通費補助

これらはいずれも外勤職員の地位にあるが故に支給されるものであつて、前記のとおり職員たる地位が新契約募集高によつて定まるものであるかぎり、これらは固定給というに価しない。これらの給与は新契約募集による報酬の一部をこのような名称を冠して支給しているに過ぎない。

(3) 功労加俸

これは各年度毎に経営協議会において決定するものであるが、昭和三二年度はその受領資格を同年三月末日現在において勤続一年以上の外勤職員で平均挙績が係長八〇万円以上、係長補五五万円以上、主任四〇万円以上の者に限定されている。

従つて、功労加俸が募集成績によつて甚だしい影響を受けるものであることは明らかで固定給ということができない。

(4) 地区主任手当

この手当は、集金額の一・七パーセントを当てるものとされているが、この一・七パーセントに当る額の支給方法は、毎年三月および九月の各末日を基準として予定集金額に比例して地区主任手当としての支給額が決定されているので、六ケ月間は固定給のような外観を呈している。

しかし、この給与のきめ方がすでに集金額に比例するものであり、しかも職員でなければ地区主任となり得ないのであるから、前記六ケ月間内であつても、新契約募集成績が不良で職員から格下げされれば、同時に地区主任の地位も失うのであるから、この地区主任手当も固定給というに価しない。

(五)  給与の削減の違法

以上の諸点から見て、原告らの昭和三二年六月分の給与はすべてそれ以前の原告らの募集成績に比例して定められ、同月中の原告らの労働時間に応じて定まる性質の給与は存しないから、原告らが同月中に争議行為をしたからといつて、同月分の給与が削減さるべき筋合ではない。

四  被告会社の給与の未払

しかるに被告会社は、原告らが昭和三二年六月二五日、二六日争議を行つたことを理由として、同月分の給与のうち別表(二)の(1)の給料、(2)の勤務手当、(3)の地区主任手当、(4)の功労加俸(7)の出勤手当、(8)の交通費補助の各費目の二五分の二に相当する分(その合計額は、別表(二)の「削減額」欄記載のとおり)を支払わなかつた。

五  むすび

よつて、原告らは、右未払額の合計である別表(一)の金員およびこれに対する本件訴状送達の翌日である昭和三二年八月二日から支払ずみまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

第三被告の答弁および抗弁

一  答弁

(一)  原告らの職務

原告らの請求原因第一項の事実は認める。

(二)  原告らの昭和三二年六月分の給与

原告らが昭和三二年六月二五日、二六日の両日争議行為をしなかつたとすれば、原告らの同月一日から同月末日までの給与として同日までに支払うべき金額が別表(二)のとおりになることは認める。

(三)  同月分の原告らの給与の削減

被告会社が原告らにおいて前記両日争議をした故をもつて、同月分の給与のうち別表(二)の(1)、(2)、(3)、(4)、(7)、(8)の各費目の二五分の二に相当する額を削減して支給したこと、削減した額の合計が別表(二)の「削減額」のとおりであることは認める。

(四)  原告らの給与の性質

原告らの給与が原告ら主張の性質を有するものとして当事者間に合意されていることは否認する。

(1) 被告会社の従業員の区別と原告らの地位

原告らの請求原因第三項の(一)の事実、同項の(三)の事実のうち、外勤職員が三階級に格付られていること、原告らがその主張の地位の外勤職員であつたことはいずれも認める。

(2) 月掛外勤職員の勤務の拘束性とそれに応ずる固定給与の加味

被告会社は昭和二四年四月月掛保険制度を創設したが、この制度の実施に当つて、従来広く行われて来た自由勤務的な外勤員の勤務形態に変更を加え、外勤員の日々の勤務について規制する制度を採用し、その給与についても、かかる勤務体制に相応しい固定給与を多分に取り入れたのである。

元来月掛外勤職員は単に新契約の募集に従事するばかりでなく、日常一定の地区を管理して、右地区内における既契約の月掛保険料をも集金する建前となつているから、納金その他の事務処理上日々会社との間に規則的な連絡を必要とするのである。

従つて月掛外勤員は就業規則により定刻までに出勤し、拘束九時間の勤務に服し、遅刻、早退その他就業時間中勤務を離れる場合は所定の手続をふむことを必要とされている。

このような内勤職員に近い勤務体制に応じて月掛外勤職員の給与には固定的要素を大幅に取り入れ、主任、係長補、係長の三段階に応じて毎月一定の固定給を支給し、これに新契約募集高に応ずる比例給を加算することとしたのである。

すなわち、月掛外勤職員の給与は、単に保険契約の募集高に応ずる報酬が与えられるのでなく、前記勤務時間に拘束された勤務を考慮してその全勤務に対し比例給と固定給とを併用した形態において与えられているのである。

従つて、原被告間の契約上原告らが争議により被告会社の職務に従事しないときはその固定給与を受け得ないことは当然の前提としているのである。

(3) 労働協約第四条に定める固定給与の削減

このことを具体的に明確にしたのが、原告らの所属する明治生命月掛労働組合(以下、組合という。)と被告との間に締結された労働協約第四条である。

右協約第四条は別紙(三)のとおりの文言である。

右条項によれば、組合活動は原則として執務時間外に行うものとするが、協約で定めた経営協議会とその分科会などの場合は執務時間中に行うことを認め、経営協議会とその分科会に限つてこれに出席する職員の固定給与を削減しないものと定めているというべきである。

従つて、原被告の契約上固定給与の存すること、執務時間中の組合活動は前記の例外の場合を除いてこれに参加する職員の固定給与を削減するものとして合意されていることが明白である。

争議による労務の廃止は、執務時間中の組合活動による労務の廃止と同等のものであるから、原告らが昭和三二年六月二五日、二六日の両日争議をし、その間新契約の募集はもとより契約者に対する所定の集金など一切の業務を放棄した以上、同月分の固定給与が削減さるべきは当然である。

(4) 増産手当支給による給与削減の承認

以上は、右争議の妥結の際、被告会社が外勤職員の争議参加による給与の削減に対する実質上の補償として増産手当を支給するに至つた経緯から見ても明白である。

被告は右争議に際し、争議参加者に対する昭和三二年六月分の給与のうち別表(二)の(1)、(2)、(3)、(4)、(7)、(8)の各費目につき、その参加日数に応じて給与を削減することを明らかにした。

右争議は同年七月四日払暁妥結を見るに至つたが、その団体交渉の席上組合側から会社の行う給与の削減は組合員の募集意慾を失わさせるから撤回して貰いたいとの申入があり、会社側はこれを拒否して従前の態度を貫き、給与の削減を行うが、増産手当という名目で給与削減に対する実質上の補償を行うことで労使の意見が一致したのである。

以上の経過から見れば、争議により原告らの給与の固定給部分が削減されることを労使共に承認し、これを前提として前記増産手当に関する協定が締結されたのである。

(5) 協約第四条にいう固定給与

被告会社が原告らの昭和三二年六月分の給与から削減した費目はすべて協約第四条にいう固定給与である。

原告らはその給与がすべて比例給であるというが、比例給であるためには少くとも当該月の給与がその月又は前月の計算期間内に示した成績と直接の関係を有し、その額の多寡によつて比例的に給与が定まる関係になければならない筈である。

しかし、月掛外勤職員に対しては、右期間の成績が零である場合でもその有する資格に従つて固定的に定められる給料、勤務手当、地区主任手当、地区差手当、功労加俸、出勤手当および交通費補助の各費目は減ぜられることなく確定的に支給されるのである。

例えば、係長は三ケ月間連続成績が悪くとも、その三ケ月間は係長としての前記各費目の給与を受け、四ケ月目に係長補に格下げされるが、四ケ月、五ケ月は成績が悪くとも毎月係長補としての前記各費目の給与を受け、六ケ月目に主任に格下げされるが、六、七、八月の三ケ月間は成績が悪くとも主任としての前記各費目の給与を受けるのである。

このような給与が比例給であるわけがないのである。

しかも被告会社においては、できるだけ月掛外勤職員が安定した生活の上に立つて活動することを期待しているので、格下基準該当者の中でも連続格下となる者については格下をせず、又病欠(長欠をのぞく。)その他考慮さるべき事故などの理由による劣績者に対しては成績に関係なく格下を猶予する措置をとつており、実際に格下される者は総員に対し一・六パーセントに過ぎないものであつて、格下は極めて寛大に取扱われているのである。

しかも月掛外勤職員の格下は、単に新契約の募集成績のみによつて定まるものではない。

月掛外勤職員の昇格及び格下基準に関する規定によれば、昇格の条件は、新契約募集の成績とあわせて「勤務振良好にして一ケ月の欠勤日数が三日以内のもの」と規定され、格下の場合においても成績不良の外「勤務振不良のもの」をもその対象として規定されているのであるから、昇格および格下は出欠勤の有無にかかわりなく募集成績のみによつて定まるとする原告らの主張は誤りである。

更に原告らは、外勤職員は成績不良の場合はその最高の資格である係長から五ケ月で外務員に転落するというが誤りであつて、前記のとおり普通八ケ月である。また原告らは外務員の給与には固定的部分がないというが、外務員にも出勤手当、交通費補助は支給されているのである。

(6) 大蔵省銀行局長の通達の趣旨について

原告らの援用する昭和三〇年三月一日附の大蔵省銀行局長の通達の存することは認める。

この通達は、生命保険会社の経費の健全化を促進させるために新契約関係の一切の経費を保険料に組み込まれている新契約費の枠内で操作するよう要請し、その枠を一応保険契約高一、〇〇〇円につき三〇円と定めたものである。

右通達は、右の枠内で各生命保険会社が自社の職員の給与形態をいかに定めるかという問題については何ら言及せず、右枠内でいかなる給与体係を採用するかは各社の経営方針にまかしているのである。

現に右通達は新契約費に含まれる費目ないし同費目で処理されることが望しい費目として、生命保険会社において例外なく固定給とされている支部以下の募集機関の内勤職員の人件費、月掛営業所の指導員の人件費はもとより新契約事務に従事する本社役職員の人件費にいたるまで多数の固定給与に該当する職種の人件費を挙げているのである。

(7) 昭和三一年三月二六日附国税庁長官の通達について

原告らの援用する昭和三一年三月二六日附国税庁長官の通達の存することは認める。

しかし、この通達も原告らの給与の性質を決定する資料となるものではない。

元来生命保険会社の外務職員に対する給与の形態は各社によつて極めて区々であり、これに対する徴税上の取扱もいろいろに変遷している。

すなわち昭和二四年四月の大蔵省の通達においては給与所得課税の方式を勧奨し、昭和二六年一月一日附の通達においては、外務職員の給与について固定給とその他に区分して支給している場合は固定給は給与所得とし、その他は報酬所得として課税すべきことを指示した。

しかし、税務署の見解は種々に分れ、その見解に従つて給与所得課税方式、報酬所得課税方式又はその両者の併徴方式が雑然ととられていた。

そこでこの取扱方式を統一することが関係者から要望され標記国税庁長官の通達が出されるに至つたのである。

右通達の趣旨は、固定給、比例給を含む外務員の所得を報酬と給与の各所得の二本建で源泉徴収することとなると各月の給与中に源泉徴収率を異にする二の給与が存することとなつてその手続が煩雑となるので、固定給の範囲を可及的に限定することによつて源泉徴収を報酬課税方式に一本化して手続を簡略にするところにあつたのである。

従つて、右通達は生命保険会社の外務職員には原則として固定給が存しないという見地に立つものではなく、徴税上の便宜のため源泉徴収に関する限り前記取扱をするというに留まるのである。

ちなみに被告会社の月掛保険関係においては労使共に給与所得方式の源泉徴収を希望し、会社、組合の代表者が共同して明治生命の月掛保険の外勤職員の場合は勤務拘束のあること、固定給の割合の大きいことなどの点で一般の外務員と趣を異にしているから課税上給与所得として取扱われるよう要望して来たのである。

(8) むすび

原告らは、外勤職員の資格の決定に当つて、その者の過去の業績を一定の基準に従つて斟酌することをとらえて、その者の受ける給与まで固定給の性質を有し得ないと主張するのである。

しかしかかる主張は、資格をいかにして決定するかという問題とすでにこの資格を得た者の給与がいかに定められているかという問題とを混同するものである。

従つて、原告らが削減を受けた給与の費目別に、それが比例給であるとする主張の当らないことは当然であるが、特に原告らが、「給料」について述べている「会社は新契約の成立と同時に支払うべき報酬を五回に分割して支払つている。」との主張について一言すれば、これは削減された「給料」の費目には関係のない主張である。

会社が五回に分割して支払つているのは募集手当である。月掛保険の場合には一年間の保険料に相当する保険料が完全に払込があるかどうか不明であるので、本来ならば、募集手当は保険料の払込毎に年に一二回に分けて支払うのが、当然であるが、会社はこれを五回に繰り上げて支給し職員の利益を計つているのである。

以上のように原告らの別表(二)の(1)、(2)、(3)、(4)、(7)、(8)の各給与費目は固定的なものであり、労働協約第四条にいう固定給与であるから、原告らが昭和三二年六月二五日、二六日の両日争議によりその職務につかなかつた以上、前記費目の給与は同月の労働日数の二五と争議日数の二との割合により削減して支給さるべきは当然である。

二  抗弁

(一)  和解

前述のとおり前記争議の妥結に至る団体交渉に際して、組合は給与削減の白紙還元を要求し、会社はこれを拒否し、総額的にこれに見合う程度のものを別の名義で支給し、実質上給与の削減を相当程度補償することにしたいとの意向であつたが、種々話合いの結果給与の削減はそのまゝとし、別に会社創立記念月にちなみ、増産手当と称する手当を給与の削減を受けた組合員に対してのみ支給することとし、その額は係長七五〇円、係長補五〇〇円、主任二五〇円とすることで協議妥結したのである。

以上によつて、両当事者は争議の際の給与削減に関しては以後争うことを止め、組合は被告会社の行つた給与の削減を承認し、会社は削減を受けた組合員に増産手当名義の金員を支給して両者の間に存した紛争を解決する和解が成立したのである。

原告赤平は組合の中央執行委員長、同伏見は同副委員長、同児玉輝男は同書記長、その余の原告らは同中央執行委員として右協定の締結に参画し、昭和三二年七月八日より同月一〇日までの間に小栗を除くその余の原告らは係長として増産手当七五〇円、原告小栗は主任として増産手当二五〇円を異議なく受領したのであるから、原告らは右手当を受領することにより会社と組合との前記協定と同一趣旨の合意すなわち給与削減に関する和解を締結したものである。

従つて、原告らがその主張の給与の請求権を有していたとしても、右和解の成立により右請求権は消滅したものである。

このように和解契約が成立したのにかかわらず本件給与請求の訴を提起する如きは和解契約に違反するものであり、本件訴訟も権利保護の資格を欠くものである。

(二)  権利の濫用

原告らは前記の組合役員として増産手当支給に関する団体交渉に出席し、会社が給与の削減の補償として増産手当を出すようにしむけ、更に右手当を異議なく受領しているのである。

また組合は原告赤平委員長の名をもつて昭和三二年八月九日被告会社に対し同年六月二四日より二六日まで病気その他止むを得ない事由により欠勤、休暇等の届出をした組合員も組合の指令に従い職場を放棄したものであるから、これらの者に対しても給与削減を行うよう申し入れたのである。

このように原告らは個人として給与削減に対する補償である増産手当を受領し、更に組合役員として会社に要求して病欠者等にも給与の削減を行わしめようとしたのである。かかる行動をとつた上、更に本訴において給与の請求をするが如きは信義に反する行為であつて、かかる権利行使はその濫用というべきである。

(三)  弁済

前述のとおり、原告小栗は二五〇円、その余の原告らは七五〇円の給与の削減に対する実質上の補償である増産手当を受領しているのであるから、原告らの給与削減分は結局その主張額から右二五〇円又は七五〇円を差し引いた額である。従つてこれを超える原告らの請求は失当である。

第四原告らの被告の答弁、抗弁に対する主張

一  原告らの勤務について

原告らが定刻までに出勤し、拘束九時間の勤務で遅刻、早退その他執務時間中勤務を離れる場合は所定の手続をふむことを必要とされていることは否認する。

二  協約第四条について

原告らが組合に所属し、被告会社と組合との間の労働協約第四条に原告主張の文言の規定の存することは認める。

この協約締結に当つて、労使双方は執務時間内の一切の組合活動に対しては給与の削減を行わないことを確認したが、労働組合法第七条第三号との関係を考慮して協約の体裁上形式的に前記第四条を入れたものに過ぎない。

このことは経営協議会とその分科会以外の執務時間中の組合活動によつて給与を削減された例はいまだかつてなく、右条項にいう固定給与とは何を指し、いかなる態様で削減するかについて具体的には何らの取決めもないことから見ても明白である。しかも右条項は争議中の給与については何ら言及していないのである。

またかような形式上の協約条項が存するからといつて実質上比例給である原告らの給与の性質を変更するものではない。

三  増産手当について

組合が昭和三二年六月下旬から同年七月四日払暁妥結に至るまでの団体交渉において会社に給与の削減の撤回を要求し、会社がこれを拒否したこと、右争議解決に際し被告主張の額の増産手当を支給することが決定されたことは認める。

しかし右増産手当は外勤職員が新契約の募集高の増大に努力することに対する手当であつて、給与削減に対する補償の意味を有するものではない。

また原告らが争議解決当時被告主張の組合役員の地位に就いていたこと、原告らが右の増産手当を受領ししたことは認めるが、原告ら又は組合が増産手当の支給をもつて給与の削減に対する紛争を解決することを約したものではない。また組合が会社の行う給与削減を承認したことはない。

従つて、被告の抗弁はすべて理由のないものである。

第五立証<省略>

理由

第一原告らの同盟罷業参加と給与の削減

原告らは被告会社の月掛生命保険契約の募集およびその継続保険料の集金に従事する外勤職員であつたが、昭和三二年六月二五日、二六日の両日同盟罷業を行つたこと、被告が原告らが同盟罷業を行つたことを理由として、原告らに対し同月末日までに支給さるべき同月分の給与のうち別表(二)の(1)、(2)、(3)、(4)、(7)、(8)の費目の二五分の二に当る分(その合計額も別表(二)の削減額欄記載のとおり)を削減して支給したことは当事者間に争がない。

第二労働協約第四条の趣旨

原告らが所属する明治生命月掛労働組合と被告との労働協約第四条が別紙(三)のとおりの文言であることは当事者間に争がない。

原告らは前記労働協約の条項は単に労働組合法第七条第三号に対する関係上形式的に挿入されたもので実質的には何らの効力を有しない趣旨で協定されたものであると主張するが、これを認めるに足りる証拠はない。

成立に争ない乙第一三号証と証人石坂実の証言によれば、昭和二六年に締結された協約の原案に右第四条と同じ条項が存し、その審議中、組合側から、第四条末項の削除を申し入れたが、組合側は結局この申入を撤回して現在の条項のままとして締結され、今日に至つていることが認められる。

以上のような経緯で労働協約に前記の条項を挿入することを協約当事者間で合意した以上、その文言による規範が設定されたものと認めるのが相当であつて、右認定に反する証人小林英三郎の証言は採用しない。

なお、成立に争ない甲第七号証の一、二、三と証人小林英三郎、原告本人赤平千代作の各供述によれば、被告会社は経営協議会の外、組合の中央執行委員会、会計監査、組合の本部役員の地方支部への出張などの場合にも、組合の申入によりこれに参加する組合役員について出勤扱にすることを承認して来たこと、右協約第四条による執務時間内組合活動の故による給与の削減の例が昭和三二年六月まで存しなかつたことは認められるが、これらの事情も協約第四条の建前が多少崩れて運用されていることを示すものとはいえるが、原告ら主張のとおり右条項が単なる御体裁であつて何ら実質的効力を有しない条項であると認めるに足りる事情とすることはできない。

そして、協約第四条の文言によれば、同条は、(イ)執務時間中の組合活動は原則として許されないものとし、(ロ)執務時間中に行うことのできる組合活動を七項目認め、(ハ)その一場合である経営協議会とその分科会に出席する職員の固定給与を削減しないものと定めたものと読めるから、その他の執務時間中の組合活動に参加する職員の固定給与を削減するのを原則とする趣旨に解される。

従つて、右条項は同盟罷業の場合には、これに参加した職員の固定給与を削減する趣旨であると解すべきことはむしろ当然というべきである。

第三協約第四条にいう固定給与

そこで協約当事者間に外勤職員の固定給与とは何を指すものとして協定されたかを検討すべきこととなる。

原告らは、協約当事者間に使われた協約第四条にいうとのころ固定給与という観念を離れて、非常に厳密な意味での固定給を前提とし、原告らの受ける給与にはこの意味での固定給に該当する給与はないと主張している。

しかし、原被告間の契約内容を規整する協約第四条においてすでに協約当事者は、原被告間の契約上原告らの受ける給与の中に固定給が存することを承認しているのである。

従つて、「協約第四条にいう固定給与」の意味を探究することが本件では問題なのである。

もとより、厳密な意味での固定給という概念が、協約第四条にいう固定給が何であるかを定める基準の一となることは当然のことではあるが、原告らが主張するように協約当事者がすでに存在を承認した固定給なるものはそもそも存在しないというように議論することは協約第四条の解釈として適切な態度とは考えられない。

協約当事者は、協約第四条において外勤職員の現に受けている給与の中での固定給与を指す趣旨で「これに(注、経営協議会又はその分科会に)出席する職員の固定給与を削減しない。」と定めたものと解するのが当然であるから、右条項にいう固定給与とは、外勤職員の受ける全給与のうち比較的に固定的な要素を持つ給与を指すものというべきである。

ところで協約自体においては、固定給与の範囲ないしその削減の割合を定めていないのである。

そこで協約第四条にいう固定給与の意味を考えるため、(イ)原告らの勤務の態様、(ロ)原告らの給与の内容、(ハ)協約当事者が協約以外で固定給与という名称を用いた場合、その固定給与の範囲、(ニ)欠勤の場合の給与の取扱、(ホ)従前の時間内組合活動の際の給与の取扱、(ヘ)本件争議妥結の際の争議中の給与の取扱などの諸点を検討すべきものと考える。

一  原告らの勤務の態様

被告会社には、内勤職員と生命保険契約の募集等を主たる職務とする外勤員との区別があり、外勤員は更に外勤職員と外務員とに区別され、外勤職員はその給与の面において係長、係長補、主任の三階級に格付られていること、昭和三二年六月当時原告らは月掛外勤職員で原告小栗は主任、その余の原告らは係長の地位にあり、原告山本を除くその余の原告らが地区主任の地位にあつたことは当事者間に争がない。

原告らが新契約の募集の外、日常一定の地区を管理して既契約の月掛生命保険料を集金する業務に従事することは当事者間に争がなく、成立に争ない乙第一号証と証人石坂実の証言によれば、月掛外勤職員は一定地区内における保険料の集金に従事する関係上、一日につき拘束九時間実働八時間の勤務拘束を受け、定刻までに出社して勤務手帳に所轄管長の押印を受け、集金事務書類等の受渡し、業務の報告などを行うこと、遅刻をした際はその旨の届出をし、早退又は勤務時間中勤務から離れる際は許可を受くべきものとされていることが認められる。

もつとも証人小林英三郎の証言によれば、外勤職員の仕事の実際は、朝九時に出勤して出勤簿に判を押し、三〇分ないし一時間程度社内の仕事をして外出し、夕刻五時頃帰社して帰るのが普通であるが、保険の勧誘、集金という仕事の性質上出社前又は夜間もしくは日曜日などでも訪問などの仕事をすることも稀ではなく、更に出社又は帰社をしなくとも仕事をしている場合が多いので主管長が電話連絡などの方法により当該職員が外で仕事をしているものと認定すれば、出勤の扱を受けるものと認められる。

二  原告らの給与

成立に争ない甲第一号証、証人石坂実の証言によれば、月掛外勤職員の受ける給与は次のとおりと認められる。

(一)  外勤職員に一律に支給されるもの

(1) 勤務手当       一律月額三〇〇円

(2) 交通費補助      一律月額五〇〇円

(二)  外勤職員の資格に応じ支給されるもの(この資格を有するかぎり、後記給料、出勤手当が募集成績にかかわりなく支給されることは当事者間に争がない。成立に争ない甲第一号証、甲第二号証の一と原告本人児玉輝男尋問の結果によれば、この資格は、一定の基準以上の募集成績を挙げた者に与えられ、またこの資格は過去四ケ月の募集成績がその資格に要求される成績の八割未満のときは五ケ月目に降格されるのが普通であると認められる。)

(1) 給料

主任  月額一、五〇〇円

係長補 月額二、五〇〇円

係長  月額四、〇〇〇円

(2) 出勤手当

主任  月額二、〇〇〇円

係長補 月額三、〇〇〇円

係長  月額四、〇〇〇円

(三)  地区主任の資格を有し、かつ、その要集金額、集金の難易等に応じて支給される給与(ただし、現実の集金額が基準金額に達しない場合でも減額されない。)

(1) 地区主任手当

(2) 地区差手当

(四)  一年間の募集成績、集金成績の良好なものに与えられるが、与えられた以上在社中減額されないもの

功労加俸

(五)  新契約の募集成績、集金成績に応じて支給されるもの

(1) 超過補給

(2) 半期奨励金

(3) 募集旅費

(4) 集金旅費

(5) 継続手当

三  欠勤等の場合における給与の取扱

以上が月掛外勤職員の給与の費目であるが、これらの各費目が欠勤等の場合にどのように取扱われるかを見る。

新契約の募集成績、集金成績に応じて支給される前記(五)の(1)ないし(5)の給与費目は欠勤には関係がないことは明白である。

前記(二)の(2)の出勤手当は前掲甲第一号証によれば、欠勤一日につき主任五〇円、係長補八〇円、係長一〇〇円を控除するものと定められていることが認められる。

前掲甲第一号証と証人石坂実の証言と原告本人児玉輝男本人尋問の結果によると、(イ)長期欠勤の場合は、前記(一)ないし(四)の各給与(ただし出勤手当を除くものと考えられる。)は当該職員の勤続年数に応じて二ケ月ないし一二ケ月間支給されること、(ロ)短期の病気などの理由による欠勤の場合は出勤手当を除く前記(一)ないし(四)の各給与が実際上全額支給されて来たこと、(ハ)月の半における入、退職の際は前記(一)ない(四)の各給与はすべて日割計算によつて支給されるものとされていることが認められる。

四  協約当事者が協約以外で固定給という名称をつけている給与費目

次に協約当事者が協約以外で固定給ないし給与の固定的部分という名称をつけている給与費目の有無を検討する。

成立に争ない乙第八号証の一、二、証人石坂実、同福田勝之(第一回)の各証言によれば、被告会社側も組合側も共に固定給与という用語を用いていること、組合は昭和二九年一一月八日附要求書において「固定給(本俸、出勤手当、勤務手当、功労加俸、地区主任手当、地区差手当、交通費)」との用語を用い、昭和三〇年一〇月二八日附の年末手当の要求書には、固定支給(本俸、出勤手当、功労加俸、地区主任手当、勤務手当)との用語を用いていること、一般に労使の間に固定給というときは、前者の要求書掲記の各費目を指すものと理解されて来たことが認められる。

五  協約第四条にいう固定給

以上を総括して見ると、被告の外勤職員にはある程度勤務時間に拘束される勤務に服し、その職務内容にもある程度恒常的な集金事務もあるので、それに応じて、すでに見たとおり、給料、出勤手当、勤務手当、功労加俸、地区主任手当、交通費補助など給与のうち他の費目に比し比較的に新契約の募集成績、集金成績と直接には比例しない性質を有する給与があり、会社、組合共に外勤職員の固定給与という場合には前記各費目を指すものと理解して来たことが認められるから、反対に解すべき特段の事情のない本件では、協約第四条にいう固定給与も右の意味に理解すべきものと考える。

第四昭和三二年六月の争議終結の際の争議中の給与の取扱について

次に昭和三二年六月の争議を終結するまでに労使双方が争議中の給与の支払についてどのような交渉をして来たかを見る。

成立に争ない乙第二号証の一、同乙第一五号証、証人福田勝之の証言(第一回)により真正に成立したものと認められる乙第四号証と右証言によれば、(イ)昭和三二年六月の争議は、組合の交通費補助の増額、食事手当の支給、年間の賞与の増額の要求をめぐつて起つたものであるが、被告会社は同月二五日組合員に同盟罷業中の給与の削減を通告し、同月末日争議中の給与を差引いて支給したところ、組合から給与の削減の撤回ないし削減分の貸付を求められたこと、(ロ)被告側はこの要求に対し協約第四条の建前を主張し、組合が堂々と争議をした以上、給与の削減を撤回することはできないが、その代りに他の名目の金を出して給与削減による組合員の負担を軽減することを提案し、たまたま七月が被告会社の創立記念月であるため、増産手当として給与の削減を受けた者に対しては、係長に七五〇円、係長補に五〇〇円、主任に二五〇円を支給すること(総額的に見ると、給与削減額総額一五四万円に対して、増産手当総額一一四万円)の申入をしたので、組合も本来の要求についても妥結し、この程度で争議を終了させることとしたことが認められる。

右認定に反する証人内田雅夫の証言、原告本人赤平千代作の尋問の結果は採用しない。なお第三者作成に係り真正に成立したものと認める甲第一五、第一六号証によれば、被告会社の組織の末端では給与の削減を受けない者にも増産手当が支給された例があることが認められるが、右各号証に現われた程度では被告の本社で前記のように定めたことを否定するに足りるものとは認められない。

第五争議による給与の削減の適否

以上の諸事情を綜合すると、原告らの給与は、原告らが同盟罷業に参加したときは前認定の固定給与が削減されるものと定められていると認めるのが相当である。

もつとも、(イ)外勤職員の固定給の中にはその職員の募集成績などに関係があるものがあり、またその固定給が例えば時間外手当などに及す程度に徹底して考慮されている程でもなく、また出勤手当をのぞいて短期の病気などでは減額された例もなく、(ロ)更に経営協議会とその分科会に出席する場合を除いて執務時間中の組合活動はその固定給を削減するとの協約上の建前がその運用面では相当崩れていて、会社は組合の申入により、原則として執務時間中の組合活動についても出勤扱をして来て協約第四条の固定給与削減の例がないことの諸事情も認められるけれども、協約第四条は前認定のとおりの内容を持つ規範として定立されているのであり、この建前は昭和三二年六月の争議の妥結の際にも会社が増産手当という犠牲を払うことによつて維持されたのであるから、原告らの給与は労働協約第四条により原告らが同盟罷業をした際はその固定給与すなわち別表(二)の(1)給料(2)勤務手当(3)地区主任手当(4)功労加俸(7)出勤手当(8)交通費補助の各給与を削減されるよう規整されているものというべきである。

第六給与削減の方法

一  削減の基準

労働協約には前記第四条に固定給与を削減することだけが定められていて、その削減の方法、程度については何の規定もない。

前掲甲第一号証によれば、原告らの給与の計算期間は月の一日から月末までとされ、月の中途で入、退職の場合はその月の給与は日割計算によるものとされ(月掛外勤職員就業規則第七章第一条、第五条)、出勤手当は、欠勤一日につき主任五〇円、係長補八〇円、係長一〇〇円を控除することに定められている(月掛外勤職員支給に関する規定第三条)ことが認められる。

同盟罷業により職務を離れた場合の給与の算定につき何らの規定がない場合は、前記就業規則の諸規定の趣旨から見てその月の労働日と罷業日数との割合で日割計算すべきものと解されるが、就業規則において欠勤による減額の割合が定められ、その割合が前記日割計算による割合よりも労働者側に有利な場合は、この有利な割合によるものと解される。

蓋し前記支給規定第三条にいう欠勤の事由には何らの制限もないから、同盟罷業による場合を含むといわざるを得ないし、就業規則に規定が存すると認められる以上、それより労働者側に不利な契約は有効に存在し得ないからである。

証人福田勝之の証言によれば被告は従業員が会社の支配から離れていわば敵対関係ともいうべき争議状態に入つたときは就業規則の適用はないと考えていることが認められるが、争議をかような関係と見たとしても、その間の給与をどうするかという問題は契約内容によつて定まるのであり、従つて契約内容を規整する就業規則の適用の問題であるといわざるを得ないところである。また証人石坂実の証言によれば、出勤を奨励する趣旨で前記支給規定第三条が設けられたことが認められるから、この出勤を奨励する趣旨は争議中でも働いているものというべきである。

以上によれば、被告が原告らの昭和三二年六月分の給与のうち別表(二)の(1)、(2)、(3)、(4)、(8)の各費目の二五分の二(同月中の労働日数が二五であることは原告らの明らかに争わないところである。)を削減したことは適法と認められるが、別表(二)の(7)出勤手当の削減については被告の計算によるべきものとは認められない。

二  出勤手当の削減の割合

原告らが昭和三二年六月二五日、二六日の両日同盟罷業をしなかつたならば、原告小栗は二、〇〇〇円、その余の原告らは四、〇〇〇円の出勤手当を受くべきであつたことは当事者間に争がないから、被告の計算によると原告小栗は一六〇円、その余の原告らは三二〇円削減されたことになる。しかし前記支給規定第三条の計算によれば、原告小栗は一〇〇円、その余の原告らは二〇〇円削減されるべきことになる。

従つて原告小栗は六〇円、その余の原告らは一二〇円削減され過ぎていることになる。

第七被告の抗弁について

一  和解の抗弁について

前認定のとおり、昭和三二年六月の争議を終結させるについて、被告が同年七月組合に対し増産手当を支給することを申し入れたのは、被告が協約第四条の根本の趣旨は、争議のときは固定給与が削減されるとの趣旨であるとの自己の主張を維持するためにあつたのであるが、組合が増産手当の支給を受けたからといつて、これをもつて積極的に被告の右主張を承認したものと認めるに足りる証拠はなく、前認定の争議妥結に至る交渉の経過と成立に争ない乙第一五号証を考え合わせて見れば、組合は増産手当の支給を得たので、被告の右主張をあくまでも攻撃して争議の妥結を遅らせるまでのことはしないという態度をとつたものと認めるのが相当である。

右認定に反する証人福田勝之の証言は採用しがたい。

従つて、組合が増産手当の支給を受けたことをもつて原告らが昭和三二年六月行つた給与の削減を承認したものとは認められず、またもとよりその削減の割合までも承認したものと認めることはできないから、被告の和解の抗弁は理由がない。

二  権利濫用の抗弁について

前認定のとおり、組合は被告の行う給与の削減を承認したわけではないから、原告らが昭和三二年六月分の給与を違法に削減されたと考えてその是正を求めることを信義に反するものと認めることはできない。なお成立に争ない乙第五号証の一によれば、組合は執行委員長原告赤平千代作の名において被告に対し昭和三二年六月二五日、二六日の両日休暇をとり又は病気のため欠勤した組合員も組合の指令に従つて罷業に参加したものであるから、罷業参加の一般組合員と同様に給与の削減が行わるべきものであるとの申入をしたことが認められるが、前掲乙第五号証の一と原告本人赤平千代作尋問の結果によれば、組合としては右両日休暇を得た者又は病気欠勤者も組合の指令に従つて罷業に参加したものと認定したので増産手当の支給の統一を期するためと他面罷業参加者が後に営業所長の慫慂により休暇願を提出して罷業不参加の形式をとつているものがあるとの情報を得たので、給与の削減が被告の組合対策の具に供されるようなことがあつては困ると考えたためとにより前認定の申入をしたものと認められるから、組合がかような申入をしたからといつて原告らが個人として本訴請求をすることを信義に反するものとすることはできない。

三  弁済の抗弁について

前認定のとおり被告が増産手当を支給することとしたのは、争議をした外勤職員の固定給与は削減さるべきであるとの自己の主張を維持するためになしたものである。従つて被告は増産手当という名目で外勤職員の昭和三二年六月分の給与の削減分を返還することにしたものでないことは明らかである。

また前認定のとおり被告は昭和三二年七月の会社創立記念月にちなんで臨時給与として増産手当を支給することにしたものであるから、増産手当は外勤職員の同年六月分の通常の給与の一部として支給されたものではないことは明白である。

以上により増産手当が原告らの同年六月分の給与の未払分に対する弁済として支給されたものでないことは明白である。

被告は増産手当の支給は給与の削減に対する実質上の補償をなすものであるという。

債権者が債務の弁済としてではなく、他の名目によつて債務者から金員を受けた場合には、これを受領することが本来の債権の放棄を意味する場合に限つてその債権の消滅を来すものであることは明白であるが、本件においてはすでに述べたとおり、原告らが増産手当を受ける代りに被告の行つた給与の削減を承認したものではないから、原告らが増産手当の支給を受けたことをもつて原告らがその昭和三二年六月分の未払給与の請求権を放棄したものと認めることはできないところである。

従つて、被告の抗弁(三)の主張も採用することはできない。

第八結論

以上によれば、被告は原告小栗に対し金六〇円、その余の原告らに対し各金一二〇円とこれに対する本件訴状送達の翌日であること記録上明白な昭和三二年八月二日から完済に至るまで民法所定年五分の割合による遅延損害金を支払うべきであるが、その余の給与費目の削減は適法であるから、原告らの右削減分の支払を求める請求は理由がない。

よつて、原告らの本訴請求は右の限度で認容し、その余は失当として棄却すべきである。

なお、仮執行の宣言は、その必要を認めがたいのでその宣言をせず、訴訟費用の負担について民事訴訟法第九二条、第九三条を適用し主文のとおり判決する。

(裁判官 桑原正憲 大塚正夫 石田穰一)

別表(一)

債権目録

原告氏名

請求金額

仁科猛

一、〇一〇円

伏見市太郎

一、〇六八円

吉田誠

一、一一二円

松岡亘

九九二円

小栗正映

六八四円

村杉賢心

一、二六八円

赤平千代作

一、二九三円

山本高央

八二四円

児玉輝男

一、三五〇円

別表(二)

番号

支給費日

伏見市太郎

仁科猛

山本高央

小栗正映

松岡亘

赤平千代作

吉田誠

児玉輝男

村杉賢心

(1)

給料

4,000

4,000

4,000

1,500

4,000

4,000

4,000

4,000

4,000

(2)

勤務手当

300

300

300

300

300

300

300

300

300

(3)

地区主任手当

4,000

3,500

4,000

3,000

6,000

5,000

7,500

6,000

(4)

功労加俸

540

400

1,510

260

640

1,370

110

580

1,060

(5)

超過奨励金

4,870

2,350

6,760

1,190

3,160

2,440

5,320

2,530

(6)

失効課金

(7)

出勤手当

4,000

4,000

4,000

2,000

4,000

4,000

4,000

4,000

4,000

(8)

交通費補助

500

500

500

500

500

500

500

500

500

(9)

集金奨励金

2,025

1,680

3,050

2,310

4,540

2,580

(10)

募集旅費

6,550

5,250

7,700

2,550

4,350

5,700

5,300

9,040

5,350

(11)

集金旅費

7,105

合算9.10

8,390

12,980

9,024

合算9.11

5,550

11,360

10,080

6,900

10,000

給与合計

33,890

28,690

37,750

23,004

23,004

39,440

34,040

49,293

36,320

削減額

1,068

1,010

824

684

992

1,293

1,112

1,350

1,268

別紙(三)

第四条 組合活動は原則として執務時間外に行うものとする。但し左の各号の一に該当する場合はこの限りではない。

一、この協約で定めた経営協議会とその分科会

二、組合規約で定めてある左の集会

(イ) 大会

(ロ) 中央執行委員会

(ハ) 常任中央執行委員会

(ニ) 地区協議会

三、会社の許可を得て上部団体の会議にその構成員として出席するとき。

四、緊急を要する組合活動であつてそのつどあらかじめ会社の承諾を得たもの。

会社は前項第一号の場合、これに出席する職員の固定給与を削減しない。

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